”ないもの”つくります

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第四集 プロダクトデザイナームラタチアキさん

プロダクトデザイナー ムラタチアキさんにインタビューをしました。
プロデューサーとしての考えを語っていただき、久宝金属の取組みや日本の
ものづくりやデザイン、文化について語りあいました。

(以下 M はムラタチアキさん T は久宝金属社長 古川多夢 TED は久宝金属TED 川添光代)

一緒にしたいとずっと思っていた。

T:今回の事業を先生から久宝にお声掛け頂いたのは どうしてなんでしょうか?

M:前々から久宝さんと一緒に何かしたいなあとずっと思っていたんです。
そんなとき大阪府産業デザインセンターの方々からプロデューサー主導型の事業支援を立ち上げたいと相談があって、なかば使命的に関わってアドバイスしました。プロデューサーが主導する事業に補助金がでる。これはおそらく日本でも前例が無い画期的な取り組みです。
ところが実際に立ち上がってみると、事業主体が継続性のある企業でないといけないと言う事になっていたのです。結局プロデューサーである私ではなく、作り手である久宝さんが事業主体で、手続きや支援機構との話の窓口になっちゃいましたね。

T:今回のような支援事業のように、作るという事と売るという事、リサイクルのネットワークづくりをあの期間でするというのは凄く難しかったですよね。あの範囲でまかないきれない。年度で区切れる活動でもないし、大変でした。

久宝は「見た事が無いようなもの」を作る開発型の会社

M:でも、久宝さんのは凄く良いと思うんですよ。今回の助成で本当に全くの1から開発をしたというのは久宝さんだけですよね。情熱大陸とかプロジェクトXみたい。
上手く行くかどうか分からないリスクを背負いながら、1から新しい仕組み作りとものづくりの「見た事が無いようなもの」が出て来た。そんなのないですよ!

T:他は今までに有るものを改良したり、今有るものをどう売るかと言う所のプロデュースでしたね。

TED:そう言う意味では 今回の事業は久宝金属の良い所を全て引き出して頂けました。

M:お世辞を言う訳では無いけれど久宝さんはR&Dの会社かなと思います。調べて今までに無いものを作る開発型。それは皆が一番弱い所なんですね。
有るものを模倣してそれを量産化するとか、品質を高めるとかコストダウンするとかは有るけれど、全く無いものを1から考えろと言うとできないでしょう?

デザイナーって実際の加工を自分でするわけではないから、デザイナーが成功するとしたらと、上手くアレンジして、何に適切な製造方法をとって品質の確保と生産性の確保を上手くできるかという事なんだと思う。
だから、デザイナーが組む相手を間違うと結構上手く行かない。
そう言う意味で久宝さんはベストマッチというかやって行けるなあと。

このペタンコも少しずつ改良しながら、ここがダメだから次こうしようとやっていくじゃないですか。それ僕は少しも遅いと思わなくて、必要なステップだと思う。それを今の日本の企業は踏まなくなった。全部アウトソーシングで海外に投げてしまうようになって、彼らの方がR&Dができるようになってしまった。

「技術」や「職人技」が点在したまま消えかかっている

TED:今ものづくりというと「こう言う技術があります」と言う「職人技」と言う所ばかり強調されています。0からのものづくりは余り注目してもらえないんですよね。

M:そう言う技術の有る所をまとめて、町のEMS工場のような素材×加工方法・生産方法と言う事で商品にするまでのプロデュースをする会社。その会社を通して複数の会社が結ばれていく。
実は日本のものづくりが発展しない理由というのは、それぞれの技術は良くっても、それが点だからなんですよ。この点とこの点とこの点を結べば商品ができるのに、つながっていないんですよ。

それをつなげる仕組みを再構築しないと。その点は今、全部消え掛かっていっているんです

TED:その点は大きな企業としかつながっていなくて横のつながりが有りませんよね

M:大手の会社の下請けは毎年仕事をもらって回っていたけれど、大手が海外に拠点を移して契約が切れた時に困ってします。細々とはやっているけれど、余りにも生産量が低い。
でも、誰にも負けない技術を持っている。
今大事な事はそれらの企業を誰よりも良く分かっている人がプロファイリングして行く事。
海外の有名ブランドのバイヤーは日本全国の伝統産業をプロファイリングしている。それが凄い分量になっていて、次々製品を作っている。消え行く手技に注目して調査して、ものを作っている。ところが、僕らは海外の安いものと勝負しようとしている。本当は僕たちがそれをしないと行けないのに。

同業者を理解している久宝が「引き出す」「つなぐ」仕事を

これから大切な事は、久宝さんが同業者の事は一番よく分かっているからそのようなプロファイリングをして、色々な工場をつないでいって、点が線になって、それがつながって面になるような仕事をする事です。そうしたらものすごく強い。どんな仕事が来ても対応できるようになると思いましたねえ。
色々な工場に特化した技術が有ってもそれってデザインに生かしていないでしょ?
その技術を使って美しく見えるようにするのにどうしたら良いか?それを引き出してあげる。それを見極める、それが久宝さんの仕事のような気がするんですよね。

前社長TED光代の性格を知っていて一緒に仕事をしたいと思った

T:作り先をつなぐという役割を担っているというお話を頂きましたけれど、今回の事業のお声掛けを頂いたとき、それを見抜いてでは無いですよね?
今回の事業はどのような事でお声掛け頂いたんですか?

M:それはずっと前から前社長の性格を知っていて、一緒に仕事をしたいと思っていたと言う事が有るんです。けれど、実は会社の内容は良く分かっていなかった。全部内部で加工をしていると思っていたけれど、どちらかというとアセンブリーをしている。でも、機械もあるし。

TED:私が変えて来たのです。「デザイン」に出会って、もっと違うことをした方が良いと思って会社を変えて来たのです。ここに来た時にかなり機械を捨てました。今の社長になり、もっと「0からのものづくり」ができるようになると思ったのです。

M:それは言えてるんです。機械に縛られちゃう。機械に縛られたり人に縛られたり。縛られるものはいっぱい有るんです。
それを切ると自由になるでしょう? 発想が自由になる。
機械に縛られたり、加工技術に縛られ、生産効率と色々縛られる。

TED:そう言う考え方ができたのは色々なデザインの勉強をしてきたからだと思います。

現社長古川は疑問があると納得するまで突っ込む人

T:私にお話を頂いたのは?

M:社長はね、面白いんですよ。色々驚く事が有ってね。
co-design の時に「普通の人間じゃない」と思った。
疑問に思った事は、そのままに残さない。
分かるまで聞いてくるし、納得するまで突っ込んくる人だなと思って。
その人がここで前社長とつながってびっくりして。
この人の息子か・・・と!!

T:あ、最初親子とはご存じなかったんですね。

TED:ま、そう言う粘り強い所が有るからこの事業も最後まで行けたと思うんです。

M:うん。さっきのR&Dの話につながるけれど、やって上手く行かない所を「ま、良いかこれで」としてしまわないですよね。ペットボトルを一回つぶしたつもりでもまた戻ってくる、じゃあどうしたら戻らないかってことをやる訳でしょ。絶対に諦めない。その辺でこの人は信頼できるなあと思って。

“PET&ECO”テーマが難しくても妥協はしたくなかった

TED:最初は「ペットボトルつぶし椅子」でしたもんね。子供というテーマのおかげで、これはダメだというのがいっぱい有って大変でしたね。
安全性を確保しとうと思って二転三転しました。

M:申し訳なかったね、色々アイデアは出してもNGになって。
僕も社長と同じような性格で、余り妥協したくないんですよね。
今回のも「ま、良いかこれで」の程度で上手く書類を出していたら、それはそれで通っていたと思うけれど。
久宝さんだけは「本当のものづくりはこれだ」をやった。
だって、計画通りのものづくりなんて無いですよ。
補助金のスキーム自体がおかしいです。途中で変更してもOK、それが本当の研究開発です。

形を変更してでも「楽しさ」と「安全」をぶれずに追求

T:企画書は私が書きましたけれど、先生から初めに言って下さった「子供がペットボトルをつぶす」と言う所と「座るとつぶれたペットボトルがぷりっと出てくる楽しさ」は大切にしました。
普段物を壊すと怒られる子供が、つぶすとほめられるというコトを大切にしたかった。そこの所を大切にしつつ、現場の声の「危険というのはもちろんダメ!危険というイメージが有るだけでもダメだ」という所をクリアしつつ、ぶれずに行けたのは最初に頂いたイメージ良かったんだと思います。

TED:ハードルは凄い高かった。子供を選択したからね。

T:出てくる所まで含めて、こういうつぶし方をする時の理想的なつぶし方として三菱型につぶすのが良かったのですが、もう一つの作用として ラベルがつぶした後から上手くはがせる所が良かったですね。

M:それを見たとき本当にびっくりしましたね。

ゼロから学んだ「デザイン」と「ものづくり」

T:私はムラタ先生の一番始めのセミナーで衝撃を受けたんです。
私はデザインの勉強を学生時代にはしていないんです。
でも、喜多俊之先生のセミナーで「デザインは暮らしぶりの提案だ」と言うのを聞いて、自分たちでも参加できると思ったんです。
それでインテリア棚受けを開発してグッドデザイン賞をもらい、井上斌策先生に「品がある」と言ってもらいました。「作るに足る品が無いと製品と言えず、売るに足る品が無いと商品と言えない」と言う激励とハッパの両方をもらいました。形や機能だけじゃなく意味や志が大切だと学びました。

「とりあえず文化」VS「デザイン」

ムラタ先生の講義でショックを受けたのは「日本とりあえず文化」。
1軒の家の周りに「とりあえず」で物置やクーラーの室外機が乱立していく、それぞれが個々にはデザインされていても、「とりあえず」で後から追加されると家の価値や町の景観は悪くなってしまうという。人や社会に進むべき道を示したり、その共有をうながすのもデザインの担う役割であることを学びました。
その後のメタフィスの立ち上げでその解決を実践してらっしゃいますね。理想を思い描いて、計画して、実現までやってしまう。
「とりあえず」に留まらない、デザイナー発プロデュースの草分けだと思います。

「とりあえず」を越えた「達成感」はお客様にとって大きな価値に

M:レールシェルフは「日本とりあえず文化」を打ち破る商品ですよ。

T:壁にねじ穴をあけるというハードルを越えないといけない、つまり「とりあえず」では買えない商品なんです。実は「ねじ止め」にはこだわっています。
あちこちで作っている棚は簡単に押しピンで留められるようになっていますが、ねじと違って壁に対して引きつける力が無いから、物を乗せると絶対に前下がりになってたれてくるんですよね。
それと、押しピンで付けるのは簡単で工具も必要ないけれど、お客様の体験は「この商品便利」なんですね。
でも、勇気を出して壁に穴をあけて取り付けたら「私って凄い!」になるんですね。製品が凄いんじゃなくてお客様が凄くなるんです。

M:達成感って方向にいっちゃうんだ。

T:買って下さったお客様方のブログやレビューに教えられました。
付加価値って作り手じゃなくて、お客様が感じるものなんですね。

デザインは生き方 考えを実践して自分の生き方を作っている

M:デザインって生き方だと思うんですよね。自分の事をデザインするんですから当たり前だと思うんですけれど、自分の人生をデザインする、子供を何人作るとか家を建てて、DIYでどんどん改造して最終的にはどんな家にしようという。こういうDIYみたいな事をして行かないと自分の理想の住まいにならない。そう言う全部を含めてデザイニング。デザインはデザイナーがするもので素人の自分は関われるものじゃないみたいな、そこがそもそも違うんで、僕ももとはデザイナーじゃないですから。
僕がデザイナーとしてやっているのは考え方の実践、自分の生き方を作っている、確かめていると思っている。

プロデュース:本当の事を知って全員で共有して進める

T:デザインという言葉が流行りだした頃より、社会の問題は複雑になっていると思うんですよね。今のシステムというのがそのままでは今の社会問題に通用しないと分かっているのに、誰も何もしない。
そんなに大きな話でなくても良いんですけれども、そこはプロデューサーの仕事だと思うんです。
先生は、どう言う事を意識して仕事をしていらっしゃるのですか?

M:相手が何を考えているかを聞く。そうでないと分からないです。
工場に行って色々聞いても分からない。本当の事は余り言わない。
設備が稼働していないこととか、そういう問題はデザインと関係ないと思われているんですね。
ところが技術者もエンジニアも営業もみんな参加してワークショップ型の聞き取りをするといろんな面白い事実が発掘できる。出てきたことを全員で共有してキーマンと進めると本当にいいデザインになる。

共感を束ねて広げていく、小さな会社だからできること

T:ペタンコも、リサイクルに携わるそれぞれの立場の人達が守備範囲の中で頑張っているけれども全体として上手く行っていないというのが分かって、それで、今の社会の仕組みとは別に小さいものでも作れたら良いなと思って社会モデルを考えました。
このリサイクルの仕組みはいろいろな立場の人たちが共感して、同時に一緒に動かないとなし得ない事なんですよね。ペットボトルの回収と再生をスムーズに行うためには大人もこどもたちも、みんなが手をつながなきゃ。そのつなぎ役が必要で、そのつもりで作ったのがPET&ECO=ペタンコなんです。

M:今、話題になっているアイスバケツチャレンジも、個人の声掛けから始まっている。
一人一人の能動的な動きや力をたばねて広げていくような、個人や小さな会社だからこそできる役割を久宝さんが担っていくと面白いんじゃないかな。

 
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