”ないもの”つくります

”ないもの”つくります

第一集 プロダクトデザイナー秋田道夫さん

プロダクトデザイナー秋田道夫さんにインタビューしました。

秋田さんが心を砕いていらっしゃる事や、大切に考えていらっしゃる事、クライアントとの関係、そしてこれからの事等を語って頂きました。

(以下A秋田道夫さん、MTED川添光代です)

優れているデザイナーほど、作るもの自体がどう売られているか分かっているのでは!

M:デザイナーが言葉で語る事の大切さについてどう思われますか?

A:明確に自分の言葉に表わせるものを形にするという定義のようなものを 大事にしたいなあと、元々思っていたんですね。
そして、デザインじゃない事でデザインについて話すように心がけていたんです、昔から。
その人の家族の事とか、心の動きなどでデザインでも同じようなことが起こるんですというと分かり易いんですね。
クライアントだけじゃなく設計の人とか企画や営業の人にも分かり易いことが大事だなあと思うんです。その人達も家に帰ればそれを使う人でもあるし、自分自身が使う人でもあるというリアリティを持って仕事をして欲しいという事を伝える事が重要だと思っています。
絵には描けない気持ちを伝えるものとして言葉だと思うんです。

また、僕は誰にでも同じように話すと言う事が大事だと思っています。
偉い人とか若い人だからじゃなく、誰にでも「さん付け」で呼ぶし敬語は基本だと思っています。

M:私がいつも気になるのは何人かの社長さんが「デザイナーは自分の名前のために好きな事するだけだ」とか「売る事について責任を持たない」と デザイナーとのコラボを嫌がる方々がいらっしゃるんですが、どう思われますか?

A:デザイナーは売る事に熱心じゃないというのは通説になってますよね。
それはちょっと不味いなあと思ってます。後から来る後輩達がやりにくいなあと思うんです。
そうじゃない人も居ると言う事が伝わるようになれば良いなあと思うんです。

そして、優れているデザイナーほど名前をアピールしたいんじゃなくて、作るもの自体がどう売られているかと言う事、作る人はどういう気持ちで作っているかと言う事について分かっていると言う事が伝わるお役に少しでも立ったら良いなと思って、講演会とか勉強会とかしているつもりなんですけれどね。

「しろ」と言わずに「有ったら良いな」というくらいの方が人の心が動くという事を知る

M:秋田さんと一緒に仕事をする前は細部まで厳密な完璧主義者という印象を持っていましたが、実際には、クライアントの希望等も良く聞いて下さいますね。
少し印象とは違いました。

A:良く言われますし、僕自身自覚しています。
そして、できるだけ大らかでありたいなあと思って例えば大きな字を書くようにとか色んな側面で心がけていますね。

例えば、こんな事が有ったんですね。
ある場所で設計の人にこういう所に溝とか入れて欲しいと言ったんですね。
でもその人を見ていたら作業が大変そうだったんで止めた方が良いなと思って「止めて下さい」と言ったんですね。無くても悪い訳じゃないので。
ところがお昼過ぎたらできてたんですね、そう言う経験を何度かしているんです。

だから「しろ」と言わずに「有ったら良いな」と言うくらいの方が人の心が動くと言う事も57歳にして分かりましたね。

M:仕事とかで、コミュニケートが上手くいかなかった例とかありますか?

A:や~、まず頼んだ時点で分かってると思うんで、僕自身が加減するとその方に失礼だと思うから、あんまり加減していません。
ちょっとやんちゃだと思われていると思います。だから、あんまり揉めませんね。

でも、物が残っているという事は強いですよね。
自分自身はあちこちに行って話す訳にいかないし、「物を」語るのには限界があるけれど、「物が」語る力が強ければ 私が語らなくても良いんですね。

それぞれのものに込める想い

M:昨年の春くらいに「そろそろ一緒にやりましょう」とお電話いただいてとても嬉しかったのですが、どんな所を評価して一緒にやっても良いなと思って下さったのですか。

A:今回ブランド名に使いましたけれど「工夫」ですよね。
どんな所にどんな力を使えば一番効率的かと言う事を考えるのは知恵としてすごく大事だと思っていますし、工夫の極みだと思っていますけれど、そう言うもののエッセンスみたいなものを御社から感じたんですね。

僕はとんがっているものが好きでしょ。
でも、それは爆発的に売れるとは思っていないんです。
熱意を持って買ってくれる人がいて、ずっと長く売れて行くとは思うけれど。
そして、その尖ったものを「良い」と言える人は 相当デザインセンスのベースがある人だと思ってます。

物には品格というか そのものを使う時にはちょっと襟を正すとか、心の動きが上品な方に動くものって大事だなあと思って、そう言うものはそれぞれのものに込めるようにしていますね。

M:秋田さんがデザインされたものはそういう物語を語っているから、それを手にする人はそう言う気持ちに共鳴していると言う事なんですね。

A:ただ、そう言う人だけをターゲットにしている訳じゃなくて、そう言う人が増えるようになって欲しいです。

M:秋田さんは私達の会社だけじゃなくて、わざわざ四万十の工場や山も見に行って下さいましたし、私達の協力工場にも足を運んで下さいました。
現場に足を運ぶ事について 語っていただけますか?

A:湾岸警察じゃないけれど、デザインは現場で起きていると思っていますし、現場で変わるとも思っています。
僕はちゃんとした絵を書いてちゃんと作って下さいというよりは その場から出てくる最上の案でできるものを取り出したいという人ですね。
相手の人がそれまでやられて蓄積されたもので どこまでできるか、それの足りない所を自分が補助すると言う事が好きというか良いんじゃないか。図面主義じゃないんですね。

工夫を大切に、ものづくりを考える

M:久宝とやると言う事で大切にしている事は?

A:やはり「工夫」じゃないですか?
失礼ですが大量に作れないし、その価値が分かってくれる人に買ってもらいたい、大事にしてもらいたい、そんなものを作りたいんです。
ある程度緊張感のあるものですね。
どこで作っても良いようなものを描いてもオッケーをもらえないしね!

M:とても面白いのは創業者は「工夫」と言う事をとても大切にしている人だったんですね。
いつも聞いていたんです、「工夫が大事だぞ」ってね。
それを私は秋田さんに語った事は無いのに、秋田さんから「工夫」と言う言葉が出てきたというのが不思議だし、面白いなと思うんです。
「工夫」と言う言葉を見つけて下さったのは秋田さんですが、その言葉を使っていないときも、きっと、私達は恐らくその言葉が出てくるようなコミュニケーションをしていたんですね。

A:「dawn」を見せたときの皆さんの驚きようと喜びようは、今までに見た事が無いんですよね。なぜこんなに受けるんだろうと思うんですね。
あれはデザインというより注文芸術と言っても良いかもしれません。
美術館においても良いかもしれない。
あれを見た人がたいてい、私らしくないというんですね。
私も不思議だなあと思うんです。打ち合わせの中で出てきたもので。
会議の時、提案したものが受けない、それはやらない。受けたものは伸ばす。つまり、「dawn」をやろうと思ったんじゃなくて会議の中で評価されたものをやる、製造の現場主義だけじゃなくアイデアの現場主義なんですよね。

四万十の風景がとても刺激を与えてくれた訳ですよね。
どこかに行ったからって こんなにアイデアがわいた事って無い気がするんです。

M:良い出会いでしたね。

A:そうですね、不思議なエネルギーと言うか、明るさなんですよね。
高知の明るさが印象に残っていて、あの健康さは相当な力ですね。
行かなかったらもっと、ヒノキにこだわっていたかもしれない。
行ってみたらそれよりも山に川に環境に意識が行ったので、あのような大らかなベンチになったのでしょうね。

これからベンチが流行るかなと思うのですが、流行ものが気になるというより、生活様式の変わり目に敏感なんだと思うんです。
それが例えばIHであり、湯沸かしケトルであり、do-nabeだと思うんです。

そして、これからのライフスタイルにベンチは合うと思うんです。
それは床暖房と関係があると思う。床が暖かいとべたっと座ったり寝そべったりする人が増えてくる。
床に寝そべって必要な机はあのベンチ、つまり机でありベンチである。
これがこれからの生活スタイルに合うと思うんです。

M:面白く思うのはこれからのライフスタイルであり、日本の伝統的なライフスタイルでもあると言う事ですね。
日本の家は狭いからフレキシブルに使っていましたが、あのベンチは正しく そのような生活スタイルに根ざしていますね。
でもただの再現じゃなくて。

本当に欲しくなるものを作る、それが「KUFU」

A:今日のインタビューは単なるインタビューじゃなくミーティングにもなりましたね。

M:そうですね。それで、これからの事をお聞きしたいのですが。私達が目指す所、ぶれない芯についてお話しください。

A:今住んでいる所において何が要るのか、何が要らないのかと考えた時、本当に欲しくなるものを作ると言う事ですよね。 それが「KUFU」ですよね。

M:「KUFU」ブランドでこれから出てくるものが楽しみですね。
今日はありがとうございました。

 
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