久宝「ものづくり」秘話

問題は山積み!

新製品を作るとき、いつも沢山の問題に突き当たります。
「どうしても作りたいと思ったのに、もう無理だ!」って思うくらい沢山出てくるのです。
でも、その時点でやっとスタートラインなのだという事が分かりました。

物事って シンプルに見えますが、色々な要素がからまっていますね。
ですから 問題を一つ解決したと思ったら他の所に不備が出来る・・・・・・
というような「ガッカリ事件」は しょっちゅう起こります。
「上手く解決させたと思ったのに・・・・・」と意気消沈することもままありました。
無茶をカタチにするのが仕事です!
レールシェルフを例にとりましょう。

ネットで知った素敵なインテリアショップに行きました。
そこでお客様がこんな事をおっしゃっているのを聞きました。
「色々考えて、収納もタップリにして 家を建てたけれど、住んでみたら また いくつか棚が欲しくなった。でも、どんなに良い物でも棚受が有ると 家のテイストに合わない。
なんとか板だけ壁から出ているようにならないかなあ・・・。」
それで ピンと来ました。だって、私もリフォームなどで家をきれいにしたら そう思うだろうな・・・・って思いましたもの。

で、会社に帰って、「壁から板だけ出ているような そんな棚を、後から付けられるように作ってちょうだい!!」と言ったのです。
「そんな無茶な」と専務。
「その無茶をカタチにするのが仕事です!!」と私。
レールシェルフができました
それで できたのが「レールシェルフ」です。

「後から壁に付ける」+「でも、板だけ壁から出ている様に見える」・・・と言う矛盾しているような要望を何とか可能にしたいと思って作り上げたのです。
そうです! お客様の「わがままなご要望」が新製品という「カタチ」になったのです。
こんなカンタンな構造の物ですが、先ほどのように会社で叫んでから開発には二年間も掛かってしまいました。

問題は壁でした
問題は壁に有りました。
私達は 昔からお部屋でお使い頂けるような装飾的な棚受を作ってきました。
そして、それは 結構丈夫で耐荷重も数十キロあるのです。

レールシェルフも始めは そのような頑丈な物を考えていました。
でも、わかったことがあります。
昔と違い 今の住宅は大半が「石膏ボードの壁」だと言う事です。
日本家屋は 紙や木で出来ていて火事になりやすい、そのために消防法で壁には燃えにくい素材を使わなくてはならなくなっているんですね。

そして、それを安価に達成しようと思うとうしても石膏ボードを使わざるを得ない・・・・・・・
と言う事で 思いのほか石膏ボードの住宅は多いのです。

石膏ボードは石膏の粉を固めた物なので消防法が目的としている問題は解決できているのですが、昔の木質壁のように丈夫ではありません。棚をつけて物をのせる実験をしたら ある段階で急に大きな穴があいて壁が落ちてしまいました。何の音もなく突然 壁が落ちました。危ないですね。
壁に問題がありました。

と言う事は 耐荷重の大きな棚は 壁とつり合わなくなって来ているという事です。
危ないので、これでは取り付けを専門家に頼まなくてはなりません。
たくさんの討論のあげく、耐荷重を捨てたのです。
色々な事を捨てました
でも、ここで 形も振り出しに戻ります。結構良い所まで 進んでいたんですが耐荷重を意識してデザインしていたので、もう一度考え直す事になりました。仕切り直しです。
では、耐荷重の代わりに何をお客様に提供しましょうか?

あんな風にも こんな風にも使えたら・・・・・と 様々なオプションがつけられる案も色々出ました。
例えば おフキンが掛けられる様にとか、調理道具を収納しておける様にとか、フタ置き場とか・・・・・
それも検討して行きました。でも、どうしても 美しく出来上がりません。
そして、他社のよく考えられたシステムの物との違いを 明確に出来ません。
「あれより安いです」では つまらない。それで「色々オプションがつけられる案」も諦めました。
耐荷重の次に色々なオプションが付けられる・・・・と言う事も捨てたのです。

そうです、ここで よりシンプルな棚という方向性が見えてきました。

インテリアライフスタイルで 栄えある賞を頂いた時に、その審査委員長がおっしゃって下さった事にこんな言葉があります。
「ここまで シンプルに削り取った棚だからこそ、どんなテイストのお部屋にも合うし、工夫一つで どんな風にも使える。
これこそ Japanese Simplicityです」と。

壁って クロスが貼ってありますよね。
そのおかげで そのクロスの向こう側がどうなっているか 意識する事がありません。
壁付けの棚を買いに行ったとしましょう。お店に行くと「石膏ボード用」とか「木質壁用」とか書いてあります。でも、自分の家の壁が何で出来ているか 日頃意識していないので困りますよね。結局 家に戻って コンコンと壁をたたく等して調べなくてはなりません。二度手間です。

なので 私達は 耐荷重を減らして 形を思いっきりシンプルにしたので、「どんな壁にもつけられる」と言う機能をくっつけてよりお客様方に親しく思って頂ける工夫をしました。
クロスのおかげで見えない壁の向こうをそんなに心配せずに付けられるのです。
上記のような事を解決するために はめ合わせ部分を 何度も何度も設計し直しました。
せっかく設計しても もたもたしたデザインならやり直しです。そして、思い立ったらすぐに付けられるよう、どなたでも簡単に付けられる様に・・・・と言う事を重視しました。
そうです。今までの機能を捨てたので、私達はお客様が「カンタンに」「ご自分で」「どこにでも付けられる」と言う事を優先しました。

考えたのはシステムや棚板の形だけではありません。
ネジ ネジ穴の位置 端や裏の処理 色 パッケージとそこの表示・・・・・と一つずつこつこつと作り上げて行きます。どんな事でもそうかもしれませんが、ものづくりでは 95%の出来上がりでは私はまだ 道程の半分くらいしか来ていないな・・・と感じます。

残り5%部分にとても難しい問題が残っているからです。そうした物を解決して 一つの製品を生み出すには何と言っても「より良い物を提供したい!」「お客様に喜んで頂きたい」と言う情熱と、後はやはり その思いを実現する「粘り」が要ると思います。
粘りを支える勉強会
そのために 私達は色々な事に取り組んでいます。つまり、その「粘り」を支えるものです。私達は社内で沢山の勉強会や改善会議をしているのです。社員全員で取り組んでいます。

アルミのレールシェルフの端の丸みをご覧になって触ってみてください。
端の丸みはいつも均一になる様に、社内で簡単な機械を作っています。その作業をサポートする道具も作りました。そして、最終的には人の手で磨き上げます。柔らかな手触りが買ってくださったお客様の心にピタリと沿います様に・・・・・・そんな気持ちで磨いています。
また端の面は場所によって磨き方を変えています。
手が触れる外側は手触りも考慮し少し柔らかく、シェルフを取り付けた時に重なって隠れる部分はこの製品のシャープさを残すためにキリリとしたラインを大切にして磨いています。
お客様には意識していただけないかもしれない、そんな所にまで凝って磨いているのは社員みんなの心意気です。昔の日本人はお客様をお迎えするとき、季節の花や掛け軸を飾り、あちらこちらを掃き清め、器を選んで様々な形で歓待の心を表していました。
「ものづくり」というのは物を通して客様方へのそのような「もてなしの心」をお届けできる事なのだと感じています。